スイスのバーゼルからドイツに入ってアウトバーンを北上すると、車窓は田園風景と森くらいでほとんど街を見かけません。70キロほど走ってやっと街らしい街にたどり着くことができます。その街が立派な大聖堂があることで有名なフライブルク(Freiburg)です。
ちなみに、フライブルクの街にアクセスできるアウトバーンの出口は、Freiburg Sud(南)、Mitte(中央)、Nord(北)に分かれています。このことからも街の規模がある程度大きいことがわかります。
フライブルクとは「自由の街」という意味で、地名としてはありふれていてドイツ語圏には同名の街が複数あります。今回のフライブルクは正式名称をフライブルク・イム・ブライスガウ(Freiburg im Breisgau)と言います。
スイスにも同様に「自由の街」があり、こちらはフライブルク・イム・ユヒトラント (Freiburg im Üechtland)と言います。ただ、スイスのフライブルクはフランス語が優勢なせいか、フランス語読みのフリブール(Fribourg)が一般的です。
正式名称なんて普段は必要ありませんが、インターネットやタッチパネル式券売機で電車の切符を購入する際にはたくさんのフライブルクが出てきますので、正式名称を頭の片隅に入れておかないとプチパニックに陥ることになります(笑)。窓口で切符を買う際も、ブライスガウ?と聞かれますので注意が必要です。
フライブルクは環境政策に力を入れている街だけあって、旧市街は自家用車で入れないエリアが設定されており、その代わりに路面電車が街中を走っています。車通行ができる道も旧市街へ近づくとアスファルトから石畳になり、より歩行者優先の雰囲気が強くなってきます。
フライブルクのあるドイツ南西部はバーデン=ヴュルテンベルク州に属しますが、この州にはシュトゥットガルト( Stuttgart)、マンハイム(Mannheim)、カールスルーエ(Karlsruhe)などの大きな街があります。フライブルクはこれらの街に次いで第4の街なのですが、清潔な街並と雰囲気の良さは一番じゃないかと思っています。周囲には緑もあり、街の規模もちょうどいい感じで住むのにも適した街ではないでしょうか。
フライブルクの街の特色として旧市街の路地を流れる「ベッヒレ」と呼ばれる水路が挙げられます。写真のように細いものから、けっこう幅のあるベッヒレまでが網の目のように流れています。冬場は水量が少ないのですが、夏場は冷たくてキレイな水が大量に流れていきます。これは豊富な水量をたたえながらフライブルクを貫通して流れるドライザム川から流れてくる水です。このような小さな水路を張り巡らせたのは、生活用水や消火用水の採取のためであると考えられています。
夏場にローザンヌからフライブルクに来ると、フライブルクは湿度が高くて蒸し暑く感じることがあります。こんな時、ベッヒレに足を突っ込んでアイスを頬張る人を見かけます。本来の役目を終えたベッヒレは路地に涼を運び込むことで、通りを歩く人々にチョッとした憩いの場を提供しています。
カイザー=ヨーゼフ通りというフライブルクのメインストリートにはマルティン門と呼ばれる塔があります。フライブルクを訪れた観光客の誰もが写真に収めているのではないでしょうか。大聖堂とともにフライブルクを語る上では欠かせないシンボルだと思います。
そしてこちらはシュヴァーベン門。この通りを走る路面電車は、この街のサッカークラブ、SCフライブルクの本拠地であるドライザム・シュターディオン(Dreisamstadion)に続いています。試合の日の路面電車はサポーターで埋め尽くされて満員のことが多く、試合に勝利した日には歓喜に満ちあふれたサポーターを乗せた路面電車がこの門をくぐって帰ってきます。この時、シュヴァーベン門はフライブルク凱旋門となり、夜の街がより熱気を帯びてきます。
ちなみに、写真左手に見えるベッヒレは、落ちたらシャレにならないくらい幅も広く深さもあります。しかし、安全面を考慮して柵を設けたり蓋をかぶせたりはせず、いかにも酔っぱらいがハマりそうなままになっています。どう見ても危なっかしく見えるのですが、ベッヒレはフライブルクの象徴的なオブジェクトであり、フライブルクらしい景観を生み出す要素となっているので、あえて手を加えたりはしないのだと思います。
フライブルクの街並は四季折々楽しめますが、ベッヒレの存在を無意識に感じ取ることができるのはやはり夏場をおいて他にないと思います。特に夏の早朝、人もまばらな旧市街ではベッヒレを絶え間なく流れる水の音が聞こえてきます。この音が夏のフライブルクをいっそう清々しいものにしてくれます。